『シネマな凡人』

弾丸MAMAER
作・演出:竹重洋平
出演:河合伸之、滝上裕二、川根有子、中村哲人、上海菜都子、山口晶由、高橋カオリ、大田正裕、加藤善丈、田仲晶、安藤純(有限会社J-beans)、たかくら未奈、朝倉丈雄(エンジ企画)、椿克之、齊藤光司(天然工房)、岡本麻衣子、並木哲也、染谷恵子、水橋千佳子
於:新宿シアターサンモール
観劇日時:2006/03/10 19:00
 



 
「そろそろさ、何か始めないとな…てね」
「悪い人妻だァ!」
「だってわたしもう原節子よ」
「うんそう!俺が全部悪い!」
「とりあえず走れるようにすればいいんでしょ?」
「テメェ今健さんバカにしたろ!?」
「ハァ!?こいつ3千円しか持ってないよ!」
「あ、待ってちょっとください、今電波なんで地下が」
「映画にはポップコーンだ!」
「お兄ちゃんいい加減にして!」
「僕今、馬の足の真っ最中なんで」
「見直してみようかな、腹式呼吸ってやつ」
「動きが小さい!もっと体全体で!!」
「その映画に映写技師は出るんでしょうか?」
「どうも俺が主役らしいんだよ」
「もう、二人ともいつまで遊んでんのさ!?」
「これ、型番分かる?……ああ、はいはいはい」
「あたし、そんな事言ったんだ?」
「ずっとお父さんの世話をして生きていくのね?」
 

 
とある田舎町に建つ、小さな映画館「野良犬劇場」。
そのロビーで、一人の中年男が映画のシナリオ執筆に取り掛かろうとしていた。
若い頃一度諦めた夢を、もう一度かなえるために。
 
まずは舞台セットに感心。
元々この劇団の装置は丁寧に作りこまれてるものが多いのだが、今回も見事に名画座のロビーを現出していた。
手描きの映画ポスターに、自動販売機、そしてポップコーン販売機までが揃う充実ぶりで、開場から開演までの時間、観客を楽しませてくれる。
 
そしてそのセットの中で展開する物語。
一度は脚本家の夢を諦めた男が、妻との離婚、娘の一言をきっかけに、もう一度その夢に挑戦しようとするという筋自体は、「他に類を見ないほど斬新」というわけではない。
が、そんな「日常的な風景」の中で「非日常的な物語」を鮮やかに展開させるのが弾丸MAMAERの得意技。
今回も、主人公の幼馴染で元映画監督志望だった八百屋とか、同じく幼馴染で元映画女優志望だった八百屋の嫁とか、名画座の支配人や従業員、常連客や一見客まで、いろいろな人が入り乱れストーリを織り上げていく。
その展開の読めなさとテンポの良さのおかげか、2時間強の上演時間中、ほとんど集中力を途切れさせることなく見続けられた。
 
たぶん、いろんな意味ですごくバランスが取れているんだと思う。
エピソードの軽重のバランス、それぞれの役者の配置のバランス、息の抜きどころと見せ所のバランス。
だから客は“安定した”状態で芝居に没頭できる。変に構えることなく楽しむことができる。
芝居の面白さって、実はこういう部分が重要なんじゃないかと感じさせられた。
 
ただ、こう一つの作品としてはすごく面白いんだけれども、個々の役者のファンでもある自分としては、少々物足りなく思ったのも確か。
もっとこの役者さんの演技を見たい、でも役柄上これ以上は前に出られないんだろうなぁ、みたいな。
尤も、前に出なくても後ろや横でいろんなことやってたりするのだが(笑)
それに、きっと次回作では、今回とはまた違った色を見せてくれるに違いない。
もう既に楽しみ。