前略 天然工房の皆様

 まずは、公演お疲れ様でした。2通りの話とはいえ、2週間の長丁場は大変だったかと思います。本当にお疲れ様でした。
 
 今回、「雄の木」の初日、25日の「雌の木」、そして26日昼の「雄の木」と都合3回(2回と1回)観たわけですが、この「ぎんなん」という作品は、「クーラー消してもいいですか?」初演・「ソプラノ」に続いて、僕の中でいろいろな意味で印象的な作品となりました。
 
 知り合いに「面白い芝居をやってる劇団は?」と聞かれたとき、真っ先に出てくる劇団の一つが天然工房。その大きな理由は、勧められる安心感(ここならハズレはないぞ、という)があるからです。
 しかしそれは裏を返せば「予想範囲内の出来」におさまっているという事。“予想以上に面白かった!”という衝撃は久しく受けていませんでした。正直なところ、ここ何回かの公演(「ステージライフ」から「クーラー」再演まで)を観てそういう物足りなさを感じていました。乱暴な言い方をすれば「天然工房はこのくらい」という先入観が出来上がってしまっていたわけで。
 「ぎんなん」は久しぶりの新作、何よりチラシに書かれたキャストやあらすじから、今までとは違う構成の作品のように感じられたこともあり、期待して劇場に足を運びました。
 
 ……はい、確かに「予想範囲」の外でした。
 
 僕は幸い「雄の木」の“完成形”を観る事ができました。2本合わせて6千円の価値は十分にあったと思います。
 でも中には、「雄の木」初日しか観なかった人も当然います。あの芝居に3千円払った人は本当にかわいそうだと思います。もし僕が初めて観たのがあの「雄の木」初日だったら、多分二度と観に来ないだろうと思います(そういう意味でも僕は天然工房と幸運な出会いをしているわけですが)。
 「雌の木」でしんさん演じる熊谷が言ってましたよね。「僕たちは主催者です。主催者としての責任があるんです。祭りはあなた達だけでは出来ない。ステージを用意する僕らがいて、ステージに立つまゆつばさんがいて、そのステージを見てくれるお客さんがいて、初めて成り立つんです」とまぁ、そんな意味合いの事を(すいません、うろ覚えで)。
 これって天然ワークショップでのぶさんが言ってる天然工房の、ひいては役者は芝居を創る者の心得ですよね。
 それを体現するはずの舞台で、あれをやられてしまっては。意地の悪い言い方かもしれませんが、天然工房自身への皮肉に感じられて内心苦笑してしまいました。
 稽古場と本番がいろんな点で違うのは分かります。お客さんの反応を吸収して、より良い作品に仕上げていける力はすごいと思います。でも、初日のお客さんも楽日のお客さんも、同じ金額を払って同じだけの時間観てくれる、同じ立場の人たちです。その点をもっと考えて欲しいと思います。「楽日が良かった」だけではなく「初日も良かった」と言えるような芝居を観たいと思うのです。
 
 しかし、「ぎんなん」が印象的な作品となったのは、初日の惨状だけが原因ではありません。
 僕はこの作品に天然工房の新しい一面、大げさに言えば新しい可能性を見た気がするのです。
 客なんてわがままなもので、一度面白いものを見てしまうと、次はもっと面白いものをと期待してしまいます。更に天然工房の場合は「一幕もの」「シチュエーションコメディー」「暗転なし」「(基本的に)等身大の人々」という制限があるために余計にハードルが高くなっているように思います。
 先に書いた先入観という話にもなりますが、天然工房の芝居といえば「のぶさん、しんさん、ぢゃりさんを中核に、瀬戸さんや中倉さん達が周りからサポートし、田丸さんがアクセントとして飛び込んでくる」構図というイメージでした。つまりは「クーラー消してもいいですか?」の初演のイメージです。それ以降の作品は基本的に大きく構図を変えることなく創り上げられているイメージがありました。
 そして、「ソプラノ」が好きなのは、メインを塚本さんと手塚さんというお二人が張っている作品という点も大きく影響しています。
 そういう視点で観た場合、この「ぎんなん」という作品は、天然工房の新しいスタイルを(多少実験的にも見えますが)提示してくれたように思いました。
 「雄の木」の田丸さんや「雌の木」の元田さんのキャスティングが、今回一番驚いたと共に嬉しかったです。天然工房にはまだまだ面白い芝居が期待できる、そう感じました。今後もいろんな人を中心点にして、様々な色の作品を作っていって欲しいと思います。
 
 とまぁ、好き勝手なことを書いてしまいました。今読み返してみて、我ながら何様だと思います。もし、お気を悪くされたならごめんなさい。
 これからも一天然工房ファンとして、同じ芝居の世界にに関わる者の端くれとして期待しています。
 頑張って下さい。
 
草々

向こうの掲示板に書くには長くなってしまったので、ここで。