『Asymptote─極限の空を見つめるアキレス』

劇団はらぐろ
作:三戸貴史
演出:横井歌織
出演:三戸貴史、横井歌織、青山桐子、高橋良吉、橋本健太郎、上野由人、藤原亜希
於:アイピット目白
観劇日時:2006/05/04 19:00



とある古本屋を舞台に、原稿執筆に苦しむSF作家の様子と、その作品世界とが交互に描かれる。
このSF作家が、まぁ結構他力本願な人で。
編集者や古本屋の店員、常連客を巻き込んでネタを考えさせ、一種のディスカッションを経て話を作っていく。
その結果、彼らは知らず知らずのうちに自分の悩みを作品世界に投影していく。
そして作品がハッピーエンドで終わったとき、その効果は彼ら自身に還元され、現実の悩みに対しても前向きになっていく。
二つの世界のシンクロ具合が見ていて興味深く、ともすればバラバラになってしまいそうな構成を支えていた。
 
現実世界と作品世界の登場人物は一切重複しない。
唯一の例外は舞台となる古本屋の店員だが、彼女も当然ながら現実世界と作品世界とでは別の人物を演じる。
ただ一人ほぼずっと出ずっぱりの状態だったのだが、集中を途切れさせることなくきっちりと演じ分けていたのには感心した。 

芝居とは全然関係ないのだが、古本屋のセットは眺めているだけで面白かった。
並べられている本の脈絡の無さもさることながら、その題名にちょっとした遊びもあって。
中でも“エジリン”“ノグチヒデオ”“一体”などの偉人伝シリーズは、個人的にお気に入り。
 
気になったのは、若干暗転が長く感じたこと。
構成上暗転の回数が多くなるのは仕方ないかとは思うので、その分暗転自体はさくっと終わらせてもらうと良かったかも知れない。
もちろん現実的に限界はあるかとは思うのだが。

『Side Effect …副作用』

シアター ナノ.グラム
作・演出:鈴木実
出演:森田千恵子、真宮立佳、田中重実、渡邊聖美、中澤数美、福原龍彦、渡辺幸司、金子剛、愛原こず江、八木康仁、山口幸祐、徳永貴子
於:池袋 シアターグリーン エリア171
観劇日時:2006/04/22 15:00



前説によれば、上演予定時間は90分。
劇場を出た後時計を確認したら、ほんとにまだ1時間半しか経っていなくてちょっと驚いた。
 
劇団のサイトを見ると、今まではワンシチュエーション・コメディを主にやっていた劇団らしい。
もしかしたら、コメディなら面白い作品を創れる劇団なのかもしれない。
でも、今回は悲劇。
でも、この劇団独自の色を入れたかった、のだろうか。あちこちにコメディ要素が含まれていた。
もちろん、コメディを取り入れつつ全体としては悲劇、という物語はあるし、そういう構成が効果的に働くこともある。
が、それもどういう笑いの要素をどのシーンに取り入れるか、どのシーンから笑いを排除するか、そのバランスがうまくいってこそ。
残念ながら今回の芝居は、その点に関しては成功しているとは……。
もしかしたら、客席の空気が作り手の意図しない方向に流れていたのかも知れないけれども。
 
強く感じたのは、こういう一幕ものの芝居は派手な効果(照明・セット転換など)がない分、本当に役者の力量が試されるんだな、ということ。
日常的な状況で、他人から与えられた言葉(科白)のやり取りを自分の言葉として会話を成立させる難しさ。
ちょっとしたタイミング、抑揚、声量がズレるだけで全てが不自然な印象になってしまう。
実現できればすごいと思うのだが、これがなかなか……。

『サムリーマン弐の巻 際立つ哉 窓際の山田さん』

劇団虎のこ
作・演出:金子裕
出演:吉川裕朋、金子裕、村岡大介、芳賀恵子、西慶子、皆福百合子、貝藤菜緒子、菊地麻利子、朽木正伸、坂本文子(Queen B)、いぬいりさこ(Queen B)、佐藤和津恵(㈱ぱれっと)、香坂夏希(㈱フェザード)、藤川俊生(Breath)、麻倉卓也(フラッグス ファイブ)、國吉淳次(B-BOX)、鈴木智、青木悠、益子由美子、三遊亭鳳志(師匠鳳楽)、神田京子(師匠陽子)、渡邊真由美、井上紗也香、白岩愛香、高野麻衣子、寺元由嘉、宮崎志野
於:池袋 芸術劇場 小ホール1
観劇日時:2006/04/21 19:00



「何が正しいのかなんて分からないわけですよ。だからね、僕はね、自分が正しいと思うことをやろうとね、思うわけなんですよ!」


徳川幕府開闢より400年余。
いまだに鎖国は続いていた。
だが、いかに門戸を閉ざそうとも、諸外国からの影響は免れることはできず、幕府は国営企業に、諸藩の大名も巨大企業に変わっていった。
かつて武士と呼ばれた人々も、ざんぎり頭にスーツをまとい、満員電車に揺られて会社へと通勤する毎日。
そんな変わっていく世の中にあっても、変わらないものもあった。武士の魂、刀もその一つ。
徳川家公認の企業に勤め、その印として特別に帯刀を許された人々。
そんな彼らを世の人は羨望と尊敬の念をこめてこう呼んだ。
“サムリーマン”、と。

主人公山田団十郎は、東大出で将来を嘱望され、若くして海外部の部長にまで就いたエリートだったが、とある事情で会社を辞職。しかし生活のために、義兄のコネを頼ってまた同じ会社の営業二課に配属される。
風変わりな同僚たち、慣れない仕事に戸惑う毎日。自宅に戻れば、実家から押しかけてきた実母と嫁とのバトル、娘は娘でこともあろうに通学する高校の教師と付き合いだす始末。
更に、営業一課との確執に会社内の派閥争い、業務上横領事件まで絡んできて……。
 
「武士道」の名の下に統一された道徳観念を持つ世界の、ごく普通の(?)会社員の話。
どこまでいっても武士は武士。
切腹や手討ちも“業務命令”で済まされるという、ある意味ものすごい世界観。
でも、その中で生きてる人々は、ちょっと変わったところはあるにせよ、それぞれに悩みを抱えたごく普通の人々。
何のために自分は生きるのか?家族のため?会社のため?自分のため?
一度は自分を見失った主人公が、少しだけ前向きに人生を捉えられるようになる。その姿に素直に共感できるような、そんな芝居だった。
 
主人公を始め、妻、実母、娘、義兄でもある会社の上司、同僚などなど、それぞれの登場人物のキャラも立っていて、これだけ大人数が出ていても「あれ、これ誰だっけ?」というようなことも無かった。
個人的には、山田さんの奥さんとお母さんとの勝負、蛇沢さんと三宅係長の大ボケコンビ、山田さんと雪平さんのお花見のシーンがお気に入り。
佐々木係長と三宅係長の斬り合いも見ごたえあったし。
 
にしても、この劇団にはいい役者さんが揃ってるなぁ。しかも美男美女揃い。体の動きもきれいだし。
3000円でこの芝居なら、お得だと思う。
受付の手伝いをしていた知り合いに勧められて、今回初めての観劇だったが、今後もちょっと注目していきたい。
次回は8/9〜13…稽古の真っ最中だねぇ…。なんとか観にいけると良いのだが。

『それが棺だと知らなかった頃』

グラサンパンツ
作・演出:石川あさみ
出演:リン・ホブデイ、早川孝史、渡辺圭子、平野明徳(NO RABEL!)、両角葉、吉田ミサイル
ゲスト:福原まり
於:中野 劇場MOMO
観劇日時:2006/04/20 19:00



タイムマシン計画。
対象者の時間をずらすことによって仮死状態にし、100年後の未来へと送り込み、その時代の技術で創り出したタイムマシンでの帰還を目指す計画である。
計画が開始されてから10年。
いまだに彼は帰還していなかった。

先日のキャラメルボックスに続き、これまたタイムマシンの話。なんだろうね、
こういうのを共時性っていうんだろうか。
 
ストーリー自体は、タイトルが全てを表しているといっても過言ではない。
未来へ行くはずのタイムマシンが実はタイムマシンでもなんでもなく、中に入っている人も既に亡くなっていて、その事実を知らない恋人が彼の帰還を待ちわびている様子をやきもきしながら見ている男の話。
あるとき雑誌の取材が入って、タイムマシンの秘密がバレてしまい、その事実を隠蔽しようとして嘘をつき続け、でも隠し切れなくて破綻していくという、ものすごくストレートに堕ちていく話。
最初のプロローグの段階で予感したオチそのまんまだったので、逆にびっくりした。
嫌いではないですけどね、こういう話も。
 
MOMOって初めて入ったのだが、案外と狭い。
客席もせいぜい50席くらい。
だからそんなに叫ばなくても…と思う人と、いくらなんでもそれじゃ聞こえませんよ?という人と、役者の演技の距離にずれがありすぎて、いったいどのレベルに合わせて観ればよいのか分からず。
 
何よりも運が悪かったのは、隣に座った客が四六時中大声で笑ってたこと。
ある出演者のファンなんだかどうだか分からないが、その人がやる事なす事が何もかも面白くてたまらないらしく、ずっと笑いっぱなし。
いや、いいんだけどね、楽しみ方は人それぞれだし。
でも、科白が聞こえないくらいの音量で隣で笑い続けられたら、こちらは舞台観るどころの話じゃないんだが。
おかげで肝心の芝居には全然身が入らなかった。せめてその人がいなければもう少し違った印象になったかも。

『あしたあなたあいたい』

演劇集団キャラメルボックス
原作:梶尾真治クロノス・ジョウンターの伝説
脚本・演出:成井豊+隈部政則
出演:大内厚雄、温井摩耶、坂口理恵、三浦剛、畑中智行、大木初枝、岡内美喜子、安部祐介、西川浩幸
於:新宿 シアターアプル
観劇日時:2006/04/18 21:00



「僕は必ず、君に会いにくる」
「こんな気持ちになったのは初めてなの」
「二度と圭には関わらないで」
「これで、借りは返しましたからね」
「僕の推理によれば、」
「会いたいんでしょう、お姉ちゃんに?」
「お願いします。わたしにクロノス・ジョウンターを使わせてください」
「僕は反対です!人間の過去への射出は危険すぎる」
「もう二度とお母さんには会えないかも知れないんですよ?」


物質を過去へと射出することができる装置、クロノス・ジョウンター。
だが、最大の欠点は過去に射出されたものが、反動で現在を通り越し遠い未来へと弾き飛ばされてしまうこと。
1分前に跳んだものは2分先の未来へ。3日前に跳ばしたものは10日先の未来へ。そして、4年前に跳ばされたものは39年先の未来へ。
この欠点のために、クロノス・ジョウンターは商品化の目処が立たず、その開発は中止されるかどうかの瀬戸際に立たされていた。
開発継続のためには、早急に有効な研究成果を挙げる必要がある。
開発チーフの野方は、その実験の為に一人の男に白羽の矢を立てた。
布川輝良。
身よりも無く、友人も殆どいない彼ならば、未来に弾き飛ばされても大きな影響はない、というのがその理由であった。
布川は一瞬考えた後、実験対象となることを承諾する。
ただし、そのためには一つだけ条件があった。
「射出する過去の時刻と座標は僕に指定させてください。今から4年前、2004年12月23日の横浜、朝日楼旅館へ」
憧れの建築家の作品をこの目で見て、写真に収めたい。
それが布川の願いだった。
 
彼の希望は聞き届けられ、布川はクロノス・ジョウンターによって過去へと射出された。
だが、彼は知らなかった。
過去で一人の女性と出会い、彼の運命が大きく変わることを。

昨年末の『クロノス』に続く、「クロノス・ジョウンターの伝説」を元にした作品。
原作でいうところの「布川輝良の軌跡」を舞台化したもの。
原作に収められている三篇のうち、実はこの「布川輝良の軌跡」が一番好きな話。
それだけに舞台化された時にその魅力が変わってしまわないか、ちょっと心配だったのだが、すっきりとまとまっていて好感が持てた。
原作自体が短編なので、今回のハーフタイムシアターという形態にあっていたのかも知れない。
この話を2時間の本公演でやるなら、『クロノス』のように設定の追加やエピソードの挿入が必要になるだろうが、それは諸刃の剣になりかねない。
原作ファンとしては、この形でやってもらって良かったと思う。
 
 
(以降ネタバレ)

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