『TEARS DROP』

The POWER PROJECT クーデター 第24反乱
新宿シアターモリエールにて。
オススメ度:☆☆☆★/ビックリ箱度:☆☆☆☆/次回期待度:☆☆☆☆


一代で財を成した玩具メーカーの会長、ゼペット・フォード。
この世に恐れるものなど何もなかった彼にも時間は容赦なくのしかかり、突然死の影が落とされる。
医師から「いつ死んでもおかしくない状態」との診断を下されたゼペットは、その莫大な財産を年老いた妻と3人の子供(長男で現在は玩具メーカー社長のジュドー、次男で軍人の名家に婿入りしたハウンド、長女でマフィアのボスにおさまっているマグリア)に分与しようとする。
が、傲慢で他人の気持ちを考えない父親に、金やモノでしか愛情を与えられずに育った子供たちは、その取り分について不満たらたら。
避けられない死への恐怖に怯えるゼペットは、自分のことを考えてくれない子供たちに失望し、全財産を妻ナーシャに譲ると宣言。
ところがその途端、ナーシャは人が変わったかのように財産を浪費しだす。
あげくの果てには「あたしが持ってるペンダント、3日以内に奪い取った者に全財産を渡してやる!ゼペット、あんたはこいつらからあたしを守り通したら、財産の権利を返してやるよ!」と宣言。
バラバラな家族に心を痛める孫娘ケティは、祖母ナーシャを父親たちから守る役に回る。
ここに、フォード家の莫大な財産を巡る、奇妙な“鬼ごっこ”が開始されたのであった…。


T-PPCお得意の、客席も舞台にしてしまう「劇場一体型」演劇。
今回はモリエールの中央に主な演技スペースを設け、その前後に向かい合う形で客席を設置。
本来舞台として使う側を客席兼舞台、元々客席側の部分は客席専用(…変な表現(^_^;)として使用してました。
更に今回、毎公演8席限定の「遊待席(ゆうたいせき)」なるものが用意されておりまして。
ある人は舞台上に引き出され、ある人はゼペットに人質にされ、ある人は役者に愛の告白(爆)を受け。実質「いじられ席」でした(笑)
自分は巻き込まれ大歓迎(一応役者の端くれですしね)ですが、お客さんの中には観客の立場に徹して楽しみたい人もいるでしょうから、今回の「遊待席」システムは正解だと思います。
いつどこから誰が出てくるのか分からない、というビックリ箱的要素は残しつつ、舞台に巻き込む客席をある程度制限したことで、安心して(笑)見られるようになってました。

今回は大道具はシンプルに、テーブルと椅子4脚、場合に応じて窓枠や揺り椅子が登場する程度。
しかし、テーブルと椅子を組み合わせると舞台上に一段高いステージが現れたり、テーブルをひっくり返すと焚き火になったりと、随所に工夫がみられました。

脚本の構成は、前回公演「CAT MOON」の流れを汲み、神野さおりさん演じる孫娘ケティの視点を中心に物語が進むようになっていました。
やはりこの形の方が、観客も見ていて分かりやすくていいですね。以前の作品は見てるけど、前作を見ていない友人にも好評でした。
内容は、父親(祖父)が死を迎えるにあたって、金やモノでしか繋がっていなかった家族が、ナーシャの仕掛けた“鬼ごっこ”を通じてもう一度心を通わせていく、家族再生の物語。
ドタバタ部分で思いっきり笑わせてくれる一方で、ストーリー自体はしっとりと胸に響く、これまたT-PPC十八番の手法がきっちり貫かれていました。

お気に入りのシーンは、追いかけっこの途中で「ロミオとジュリエット」上演中のシアターサンモール(笑)に乱入してしまったため、成り行きでロミオとジュリエットにさせられたゼペットとマグリアが、お互いの心の内を吐露するシーン。
また今回マグリア役のひでよさんのメイクがすごいんだ(笑)眉毛は無いわ、マスカラは隈のようだわ、髪は爆発したようなパーマだわ。マフィアの女ボスとしての凄み十分、いや十二分。
そんな彼女が短時間ではありますが、かつての父親を愛し、父親に愛されていた実感があった頃に戻った時の表情が可愛らしく、対するゼペット役高橋大二郎さんも不器用な父親っぷり全開で微笑ましかったです。

気になった点としては、科白がちょっと不明瞭だったかと。
お互いの掛け合いの中で、テンションが上がりきって言葉が潰れてしまったり、自分の科白の中でメリハリを付ける、もしくは静かなシーンを演出するために声を落としすぎ客席まで届かなかったり、アクションと共に吐く科白がアクションに傾倒しておろそかになってしまったり。
いろんなパターンはありますが、やはり科白はお客さんにちゃんと渡してあげて欲しいです。
あと、いろんなギミックが織り込まれているのはいいんですが、途中何箇所かテンポが落ちてしまい、せっかく積み上げてきた流れが淀んでしまっていたように感じました。
この劇団の命はテンポの良さにあると思うので、ギミックよりはスピード感を大事にしてもらえたらな、と個人的には思います。

次回公演は8月という事で、今から楽しみです。