『クロノス』

演劇集団キャラメルボックス
作・演出:成井豊
出演:菅野良一、岡内美喜子、畑中智行、藤岡宏美、坂口理恵、左東広之、西川浩幸、細見大輔、前田綾、温井摩耶、三浦剛、岡田さつき、實川貴美子、筒井俊作
於:横浜BRITZ
観劇日:2006/01/13 19:00



黄泉がえり』『この胸いっぱいの愛を』などで知られる梶尾真治の短編集『クロノス・ジョウンターの伝説』に収められた一遍、『吹原和彦の軌跡』を舞台化。
物質を過去へ送り込む機械、クロノス・ジョウンター。
『過去に存在できる時間はごく僅か』
「“向こう”に居られるのはどんなに頑張ってもせいぜい10分。それが限界だ」
『一度戻って存在していた時間より前には戻れない』
「もう一度あの時に、1995年11月27日午前9時30分に!」
「無理だ、同じ時間には戻れない」
「なら、午前9時40分…41分…42分!!」
『一度戻ると、元の時間よりはるか先に弾き飛ばされる』という欠点を抱えたこの機械。
「お前、あれからどれくらい経ったのか分かってるのか!?7ヶ月だぞ!」
「そんな!?前は5日で済んだじゃないか!」


「一度過去へ行ったモノがもう一度過去へ移動すると、弾き飛ばされる時間が大幅に増えるんだ。それこそ指数関数並にな……前回が7ヶ月、今回が2年、もしもう一度過去へ行けば、次に弾き飛ばされるのは……56年後だ」
「……!!!…それでも…!!」
それでも吹原和彦にとっては、クロノス・ジョウンターだけが、愛する人の命を救うたった一つの希望だった。。。

終演後、もう一度観たいと思った。
今まで何本かキャラメルボックスの舞台を観ているが、そう思ったのは今回が初めて。
 
こういう過去に戻って歴史を変えようという話は、「一回やってダメならなぜもう一回行かないのか」「同じ時間へもう一度時間移動したときに、前回移動した自分の存在はどうなるか」という部分で結構強引な展開になりがち。
その点、この作品はクロノス・ジョウンターの欠点(仕様ともいう)によって比較的うまく処理できていたと思う。
まぁ、「元々その時間に存在した自分との共存」という問題については触れられていないのだが。
「歴史を変えることに対する罪悪感・戸惑い」については、吹原は最初っから歯牙にもかけてないしw
 
しかしこの吹原、ある意味ものすごいエゴイストだ。
「来美子が好き」、ただそれだけの理由で自分の人生をすべて犠牲にしてでも彼女を救おうとする。
問題は、彼の人生は彼だけで成り立っているわけではないということ。
彼の人生には当然両親がいて、妹がいて、会社の上司や同僚、地元の高校の後輩、そして他ならぬ最愛の人来美子が登場する。
吹原が自分の人生を犠牲にすると決めた瞬間、これら全ての人との関係も犠牲になったのだ。
劇中で、残される人間の気持ちを分かってないという妹の非難に対し、彼は叫ぶ。
「僕も、残された人間なんだ」
そのわがままっぷりたら、もう。
物語のラスト、最後の最後のチャンスで吹原は見事来美子の命を救った。
だが、それは決してハッピーエンドとは思えない。
だってその後数分で吹原は時間流に弾き飛ばされて、来美子の前から消えてしまうのだ。飛ばされるのは4000年(!!)以上先の未来。クロノス・ジョウンターはおろか、人類すら存在するかどうか。
つまり、もう二度と来美子は吹原には会えない。来美子もまた“残された人間”になるのだ。
結局吹原のやったことは、彼に関わった人間すべてを“残された人間”にしてしまった。
これって結構残酷な話じゃなかろうか。
ま、吹原はきっと満足なんだろうけれども。
 
なんだかんだ言ってるが、こういう話は嫌いではない。むしろ好き。
機会があればもう一回観たい…と、いうか、やりたいのかも知れない。
現実味のない話だが、うちの劇団でやれたら面白いよなぁ、これ。