『S-LASH!』

The POWER PROJECT クーデター
恵比寿エコー劇場にて。
オススメ度:☆☆☆☆/蛍光度:☆☆☆☆/次回期待度:☆☆☆☆


遥かな太古の時代。
地球に住む人間と月に住むゲルド人は、“魔動”と呼ばれるエネルギー変換技術を巡り、果てしない戦いを続けていた。
数で勝る地球軍と、個体能力が桁違いのゲルド人。
戦いは膠着状態のまま長引き、両陣営はじりじりと疲弊していった。


そんな中、同じ地球軍の囚われ人として出逢った盗賊ルイドと元軍人リカルド。
彼らの、そして彼らの中に流れる血の邂逅が、この不毛な戦いを終わらせる鍵となることを、その時は誰も、彼ら自身でさえ知る由もなかった……


今回の劇場は恵比寿のエコー劇場。
舞台上の天井の高さもあり、客席も前列から後列へ大きく段差のある構造です。
この観客の頭上にぽっかり空いた空間。
普通なら空虚なままのその空間が、この劇団の手にかかれば立派な表現空間と化します。


今回のもう一つのタネが、劇場内のあちこちに設置されたブラックライト。
客の着ていた服が蛍光を発する為暗転が暗転にならない、という弊害はありましたが、それを補って余りある効果がありました。


客席頭上の空間とブラックライト。
その2つの要素が最大限に生かされていたのが、飛行戦艦同士のドッグファイトのシーンでした。
黒く塗られた棒の先に取り付けられた戦艦には蛍光を発する塗料が塗られており、ブラックライトの独特の光に満ちた空間の中では、本当にそこに戦艦が浮いているような効果を生み出します。
更に、その棒がかなり長い為、戦艦は劇場内の空間を縦横無尽に飛び回り、実際に宙を飛び回っているように見せてくれました。


また、劇中のクライマックス、敵役の操る魔動兵器ソドムが触手で主人公達を襲うシーンがあるのですが、その触手も黒塗りの棒に蛍光を発する布を取り付けたもので表現され、ふわふわゆらゆらとした動きが、不気味かつある種幻想的な空間を創り出していました。


ストーリーとしては、久しぶりのSF作品。
やはりSFものは話のスケールが大きくて面白いです。
いや、もちろん身近な話も、それはそれで面白さがあるんですが。
縮尺の違い──飛行船の外観とその中の人物を舞台上に並べてみたり──や、黒子を使っての宙返りや落下のシーンなど、随所にT-PPCらしい演出があって楽しめました。
アクションも、今回は戦争の話という事でストレートな戦闘シーンも盛りだくさん。
バイクと車と馬(笑)のチェイス、飛空挺での空中戦、剣を用いての白兵戦、そして男の意地をかけた肉弾戦(笑)と、種々多様なアクションを見せてくれました。


弟の分まで生きるために、女を捨て男として弟の名を名乗って生きる盗賊ルイド。
妻の命を救えなかった罪の意識に苛まれ、死に場所を探して流されるままだった元軍人リカルド。
彼らの対比と対立、そしていつしかリカルドもルイドのペースに巻き込まれ、人生に前向きになっていく。
ルイドが最初に言う「“絶対”なんてこの世にあるかよ!」という科白と、彼自身が最後に言う「絶対俺が守ってやっからよ!」という科白が好対照で、観ていて上手いと思いました。
ルイド役の神野さおりさんのハスキーな声が、男を演じているルイドにはまっていて良かったです。が、日を追うごとにそのハスキー度に磨きがかかっていってたのがちょっと心配でした。今回叫ぶシーンが多かったですし。
また、シーラ役のひでよさんの可愛らしさが印象的でした。前回のマグリア、前々回のアルファロメオと結構強烈なキャラが続いていたので、今回のけなげな少女の姿にはやられました。
リカルドの亡くなった奥さんを演じられていたREIさんの可憐さとか、力に溺れるピレス少佐役の三浦彩花さんの見下しっぷりとか、今回は女性陣の活躍が印象的でした。


惜しむらくは、アクションと科白が並び立っていなかったことでしょうか。
かなりのスピード感で芝居が進む為、状況説明は勢いセットよりも小道具だったり科白によって観客に想像してもらう必要があるんですが、肝心のその科白がはっきり聞き取れない為に、いったい何がどうなっているのかよく分からないシーンも散見されました。
この点はもう少しお客に優しくして欲しいところです。
また、今回初日に遊待席に座ったのですが、思ったよりもいじられなくてちょっと拍子抜け。
今回はこんなものなのかな、と思いつつ翌日観に行くと、ごりごりいじられててちょっぴり羨ましかったり。
まぁ幕開けてからでないと分からない部分もあるでしょうし、その辺は仕方のないとこなのかもしれませんが。


次回は12月、クリスマス公演だそうです。
どんな世界を見せてくれるのか、次回も楽しみにしてます。